映画感想:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

所謂「マルチバース(並行世界や世界線)」を扱ったSFギャグ映画。
あれこれ言われているポリコレ要素はさほど気にならず、取って付けた感はなくうまいこと話の根幹にねじ込んだ感じ。
だけど本当にやりたい事は、誰でも一生に一度は思うであろう「あの時ああしていれば」というたらればから来るトンチキバトルが本体なのがよくわかる。
前情報でクレしん映画やボーボボに近いというのを聞いていましたが、確かに言われてみれば近いテンション。
別の世界線に居る自分の能力を拝借する為にはあえてアホな行為をしなければならない為、ボーボボの5メガネのあのネタを彷彿とさせるトンチキクエストを大真面目にやるという、日本のギャグマンガ家が考えそうなネタをハリウッドの脚本家が真面目に不真面目に考えたという事実だけでも面白すぎる。
クレしん映画とボーボボとシュタゲとポプテピピックとエヴァとパプリカと浦安鉄筋家族をコンクリートミキサーにぶち込んでだばぁした様な話。

一見あらゆるギャグ要素がとっ散らかった闇鍋ちゃんぽん映画っぽくはありますが、落ち着いてから考えるとあれこれの要素は全て関係していて、主人公がリンクする世界線は全て主人公の思いや挫折した行動に関係しているものです。
何の関係もなさそうなトンチキ世界である指がソーセージになった人類の世界戦は、娘の恋愛事情が特殊過ぎるが故に理解出来ない悩みから来るものですし、同じく生命が発生する条件が揃わなかった石ころの世界は、辛抱強いムードメーカーなだめんず夫から来ています。
そして家族に関係している後者二つのトンチキ世界のスキルが、クライマックスで主人公を窮地から救う反撃スキルとして発動します。

また、シーンは現実と別世界線に意識がリンクした時が結構な頻度でザッピングされるので、どれが本線の世界線でどれが別世界線かが混乱してきます。
更に主人公は飽きっぽく空想癖があるような含みもあるので、もしかしたら国税局内でのバースジャンプトンチキバトルは全て主人公の妄想ではないかと思う事も。
個人的には、コインランドリーと確定申告に関するシーンは現実で、国税局の中で起きているトンチキバトルは現実逃避の妄想ではないかと思っていますね。
実際にはあんなバトルは起きていないけれど、税金払えなければ破産という極限状態の中見えた、強い幻覚だったのではないかなって。

作中全てを拒絶する究極兵器として「暗黒ベーグル」が登場しますが、この暗黒ベーグルは国税局のおばさんに経費として認められなかったカラオケの領収書に「デカデカと書かれた黒丸」が具現化したものなんじゃないかと思うんです。
事実として認めたくないが故に、領収書の黒丸は主人公の脳裏にトラウマの様に焼き付き、ダメな自分もダメな生活もめんどくさい家族問題も何もかもを投げ出して、自由になりたいという願望を叶える究極兵器暗黒ベーグルとして存在しているのではないかと。
カオスと化した主人公の娘は主人公そのものでもあると述べられますし、暗黒ベーグルを生み出したのは娘ではなく娘は切っ掛けに過ぎず、主人公の拒絶の心だったんでしょうね。

とまあ御託並べてますが、マルチバースとはなんぞや?を理解するのは一番とっつきやすい映画かと。
最後はちゃんと一歩前に進んだ前向きなグッドエンドで終わります故。
昨今のポリコレださ!とも言いたくなるポリコレへたくそ選手権と化したアメリカ映画の中では、上手に嫌味なくポリコレを料理して組み込んでいる作品でしたね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました